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ランニングの哲学ーケネニサ・ベケレのランニングフォームー

 

ケネニサ・ベケレのランニングフォームとは 

 ケネニサ・ベケレ世界記録の動画に引き続いて、彼のランニングフォームについて見ていきます。

 

こちらは北京五輪5000m決勝のダイジェスト版です。

 


Athletics - Men's 5000M - Final - Beijing 2008 Summer Olympic Games

 

 

  

見ているだけでも心地よい走りです。しなやかで、バネの効いた走りです。

芸術だと思います。逸品です。

 

 

最大限の「ストライド

ベケレのランニングを後ろから撮った映像です。

 


KENENISA BEKELE RUNNING STYLE In Slow Motion

 

詳しく見ていきましょう。

 

この小さい身体における最大限の「ストライド」を見せています。

 

パッと見ると、少し無理をしているんじゃないかと思うくらい、足を大きく前にふり出しています。ふり出してから、地面に接地するまでの滞空時間が少しありますね。

 

これだけ大きく前にふりだし、大きく後ろにけりだすと、普通なら上半身がそり返ってしまい、肩が足と反対方向に回転してしまいます。

 

 

バキバキの「体幹

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Gebre-Egziabher Gebremariam | Getty Images

 

画像の右側がベケレですが、左のゲブレマリアム選手よりも上半身がやや前傾しています。そして「体幹(胴体の筋肉)」がずっと太いのがわかります。

 

ベケレの大きな走りを支えるのがまさにこの「体幹」です。岩のように盛り上がったバキバキの「体幹」が上半身のブレを抑えています。

 

同じようなバキバキの体幹の持ち主に、「皇帝」ハイレ・ゲブレセラシエがいますが、少し走りのタイプが違うように見えます。「皇帝」よりも鎧坂哲哉選手の走りが近いかもしれません。

 

さて、この金属塊のような「体幹」によって、下半身の激しい動きが上半身に伝割ることなく、「体幹」の部分で衝撃は遮断されてしまいます。

 

それによって上半身の脱力が実現します。どのレースの映像を見ても、ベケレの肩が一番誰よりもリラックスしています。

 

足のほうは激しく地面を蹴りだしているのに、上半身だけ見ると休日に軽くジョギングでもしているような脱力ぶりです。

 

 

全身を使おう

足が接地すると、一本の足に、力を加えて、全身を使ってなめらかに地面を後ろへ押し流します。このとき、使わない部位、動いていない部位はほとんどありません。前へ進むために全身を総動員します。

 

筋肉よりも先にまず、自分の「体重」が大きな推進力となります。映像を見ると、地面に接地した側の、わき腹のあたりにクッと力がかかって、これから前に出すほうの腕の肩が落ち込んでいるのがわかります。

 

接地した足に力がかかるとき、力のかかる足の裏の特定の部分が、自分の重心に近ければ近いほど、それは「体重」をかけただけで推進力となります。適当に走ってみるとおそらく重心のだいぶ前に足をついていると思います。

 

そこへ、自分の「体重」プラスの「筋力」を、腰の回転とお尻の筋肉によって足先に伝えます。ベケレの場合、足の裏、中盤からやや外よりに力がかかっています。

 


Bekele, Gebreselassie and Farah in slow motion

 

このとき、ひざや足首で力のロスが出てしまわないように、細かい関節の「角度」の調節を身につける必要があります。

 

ひざの「角度」が悪いと、前ももや後ろもも(ハムストリングス)を酷使することになります。足首の「角度」が悪いと、今度はふくらはぎや前脛骨筋(すねのとなり)が疲労します。

 

関節の絶妙な「角度」を扱えるようになれば、関節は関節でまたバネを生み出します。

 

そして、ひとつひとつこれだけの動きを、ただ正確にやるだけではなく、素早いピッチの中で行うのです。ふりだして、接地してから蹴り出すまでほんの一瞬です。

 

  

左右差

そんな美しい力学を体現したようなベケレの走りにも、じつは左右差があります。

 

左腕が、より後ろへ引き込まれているのに気がつかれたかと思います。

 

身体の左右差は練習中にいつでも気になるものです。また、椅子に座っていつも同じ足を組んだり、車の運転をしたりすると自然に左右差が出てきてしまいます。

 

片方の部位だけを酷使した結果として怪我の原因にもなってしまいます。

 

しかし両足を使うサッカー選手に利き足があるように、どんなに一流の陸上選手にも左右差が存在します。

 

ゲンゼベ・ディババなどは顕著な例です。ゲブレセラシエも毎朝走って学校へ行く時に教科書を抱えていた腕振りの癖が今も抜けていない、と話しています。

 

もちろん左右差は無ければ無いでその方がいいかもしれませんが、あっても仕方がないということです。

 

 

同じ走り方は存在しない

これまでに見てきたケネニサ・ベケレのランニングフォームが最も優れているのか、と言われればそんなことは決してありません。

 

これはとても不思議なことで、かつ楽しいことだと思っているのですが、どの選手を見ても、一人として同じ走り方をしているのを見たことがありません。

 

たまに、厳格なフォームの指導がある高校やチームの選手が同じような系統の走りをしていて、一目見てどこの選手かわかるような場合もありますが、それとてよく見れば全く違う身体の使い方をしているものです。

 

持論ですが、これは生まれ持った「骨格」の違いによるものだと思います。

 

大腿部とすねの骨の長さとその比率、骨盤の大きさに形状に角度、上腕部と前腕部の長さとその比率、などなど。

 

その「骨格」に合う、人それぞれの筋肉がついているのだと思います。

 

きっとそれぞれの「骨格」に合った走り方というのが、あるのではないでしょうか。

 

 

 

※方法論よりもまず真先に、走っていて楽しければそれが正解だと思います

 

 

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